東京都鍼灸師会地域連携講座「神経診察学U」2020/1/11資料


【症例1】 両眼複視外転神経麻痺(30数年前の病院勤務時の症例)

患者氏名 新○浩一 55歳 男性 職業トラックドライバー
3日前の朝、起床すると物が横並びに二重に視え、病院を受診すると脳梗塞の疑いで検査入院となった。
C T検査*を受け「年相応よりやや多い小さな脳梗塞(無症候性)があるが、複視の原因と思われるようなものはない」と言われた。  高血圧症があるが、他の健康状態は良好。最近、長く一緒に暮らしていた内縁の妻に先立たれ精神的ショックがあった。

【鍼灸医学的診断】
やや赤ら顔で、顔面から額がテカテカして活気がある。熱がり。

脈診:左右とも反関の脈で有力。(注:反関の脈とは、鍼灸での脈診で橈骨動脈の走行が橈骨茎状突起の根元の膨隆部の背側へ廻るもの。この橈骨茎状突起の根元の膨隆部は、本来の動脈の流れに向かって関のように出っ張っているためこの部を「関上カンジョウ」と呼び、この関を背側の反対側へ廻るため反関の脈と言う。)

舌診:舌質(舌の本体)は、体格に対してやや小さく、やや赤さが強い。舌苔は、やや苔が少ないが潤っている。
鍼灸治療】
脈有力で反関の脈(脈が陽の部にある)、赤ら顔、
熱がり、などから陽実証として治療。
(1)曲池、足三里に瀉法するも脈の有力は全く収まらない。
(2)太谿を補法
{太谿補について:「壮水之主制陽光」陰水を盛ん
にすることは、陽気の実(陽光)を抑制することをつか
さどる(陽実を抑制する目的で太谿の補法を用いるこ
とができる)。}
治療結果】
◎すると、天井を見ていた患者が「あれッ!一つに視
えます。」と言い治ってしまった。
以降、78歳まで腰痛等で治療に訪れていましたが、
複視の再発はありませんでしたが、一人暮らしの
自宅で脳梗塞で倒れ、発見が遅れたため寝た切り
状態となり施設入所した。
(参考)昭和大学医学部・石川慎太郎助教授(第一生理学教室)の「鍼灸の作用機序」に関する研究《ラットの実験》では、『NO(一酸化窒素)には血管を拡張作用があるが、ストレスが加わると血液中のNOが減少し血管が収縮し、血行不良や高血圧となる。刺鍼はNOを増加させ血管を拡張する。
また、ストレスが加わると血小板が増加するが、ストレスがあっても刺鍼を加えると血小板は増加しない(サラサラ効果)。
  • ストレスのみ ⇒ 血小板増加

  • ストレス+鍼 ⇒ 血小板増加せず

また、血管拡張反応は、足三里、三陰交、合谷で良好だったが、内関、腎兪では不良で、何処へ刺鍼してもこの反応が起こる訳ではない。
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Dr.T解説 

CT検査* では脳幹部は写らないのでダメですね。

■外転神経は後ろから橋の下を廻り込んで眼へ行くため経路が長く他の眼の神経より障害が発生しやすい。

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【症例2】 小刻み歩行(30数年前の病院勤務時の症例)
病院勤務時、鍼灸治療希望の初診患者は、先ず院長(東大医学部卒の消化器外科医)の診察を受けてから鍼灸治療に回されるシステムで、脳梗塞患者は来ないはずだったため、脳梗塞による小刻み歩行をパーキンソン症候群と思い込んで治療したもの。(院長診察が混雑のとき先に鍼を受診させることは以前にもあった。)
70代長身の男性で入り口のドアを頭を下げるように入ってくる。歩幅は靴のサイズ程度の小刻み。今朝、起きたらこのようにしか歩けなくなっていたと、突然発症で脳梗塞を疑うべきだった。言語明瞭だが話し方がやや遅い感じがした。
・・・神経診察として、バレー徴候「上肢バレー試験」「下肢バレー試験」または仰臥位で行える「ミンガズィーニ(Mingazzini)試験」、及び「腱反射試験」などを行うべきでした・・・
  • 下肢のバレー試験: ベッドにうつ伏せになってもらい、両膝関節が接しないように直角に曲げ、保持してもらう。麻痺側の下肢は自然に下降、落下したり、いったん落下して元に戻ったりするなどの症状を来す。下肢の錐体路障害では伸筋の緊張が屈筋の緊張よりも強くなるために、このような症状が出現する。

  • ミンガズィーニ(Mingazzini)試験 が有用であり、この試験を用いることも多い。仰臥位で股関節を90度くらい屈曲し、膝を接しないように離し、下腿をベッドと水平にし、空中に保持させる。麻痺側の足は自然と下降する。



【鍼灸医学的診断】
脈有力、舌質は体格の割に小さく、色はやや暗赤紫色、舌乳頭が粗い、
舌苔は白くやや膩( ジ:ぬるっとべたついているもの)。 陽実証で、舌の
赤が強く舌乳頭粗く見えるのは熱の存在を意味し、舌が小さいのは陰分
(陰血)の不足を、暗紫色は血行不良を意味する。膩苔は湿濁の存在、
(アテローム硬化症?)。
鍼灸治療】
曲池、足三里(瀉)にて陽実を除き、足三里、陰陵泉(瀉)にて湿濁の邪気
を除き、三陰交(瀉)に醒脳開竅の効果のある内関*1(瀉)を加え脳血流
の改善をはかった。
 **1手厥陰心包経のツボ内関が心臓へ影響し不整脈が改善した解す
べきか?
治療結果】
治療後、長身の男性らしく大きな歩幅で颯爽(サッソウ)と出て行った。
一週間後、「また、今朝から歩けなくなった」と再診。
先週治療後からずっと良かったが、今朝から再発したと言う。
カルテに院長の診察記録がないため訊くと「知人(*1)から『直接行ける
から』と聞いて直接鍼に来た」と言う。
前回同様に治療し、正常に歩行できるようになった。
この患者は、元来健康で医師にかかることがなかったと言い、高血圧の
管理もされていなかった。脳外科診察日でないため、循環器内科を受診
してもらい脳梗塞の疑いで即日入院となった。

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同様の症例は他にもあり、「心房細動で脳虚血の症例」、私の治療が脈状を整えることを重視している
ため、脈状を整える=すなわち自律神経を介して心臓の拍動を整えていた。と言うことになる!


Dr.T(神経内科)解説

  • 前頭葉運動野の下肢の領域が両側性に虚血となったもの
  • 虚血の原因は、心臓(不整脈による血圧低下など)による
この症例では、顔や上肢・手に麻痺がないことと、下肢の麻痺が両側性に同じよ
うに出ているため、前頭葉運動野(下図参照)の右脳左脳の中央部(大脳縦列
側)に一時的脳虚血発作(TIA)を起こしたもの.


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【症例3】 症例2の知人(*1)(30数年前の病院勤務時の症例)
患者50代男性、某テレビ局勤務匿名室長、糖尿病があり、院長が主治医をして
いた。以前から腰下肢痛(大腿神経、坐骨神経領域)があり、2〜3ヶ月に1〜2
度、鍼を受診していたが、その都度著効で治ってしまい、また、痛くなると来る状
態であった。
この日は、朝、目覚めると以前から痛みがあった左下肢が動かせなかったと言う。
右足は大丈夫なのでオートマチック車を自分で運転して来た。病院内は手すり伝
いに左下肢を引きずるようにして歩いて来たと言う。 『明日、娘の結婚式でバー
ジンロードを歩けないと困るので治してくれ』と言い、院長の診察を受けた方がよ
いのではと言うと 『入院させられると困る』から受けたくないと言う。
左は膝関節も、足関節も動かせず、股関節を屈曲して足先を前へ出すことも出来
ない。足関節はそうでもないが、膝関節は伸展位で突っ張っているように見えた。

数ヶ月前の初診時には
    腱反射: P T R 右(+) 左(減弱)   ATR 右(+) 左(減弱)
        SLR : 左 ・ 右ともに(−)だが、 左は70度;から後側に突っ張り痛が強くなる
      (*麻痺当日は確認せず)
  硬結と圧痛(左右比較して)
                :(左)大腿四頭筋直筋部
                        外側広筋部(風市付近)
                        前脛骨筋部(足三里付近)
                    大腿二頭筋長頭部
                     腓腹筋部、左天柱付近
圧 痛 点
                :(左)梨状筋下孔
                      後上腸骨棘外下部

腰椎棘突起外方の深部圧痛

       :L3、L4、L5の左

【鍼灸医学的診断】
脈有力、舌色赤紫、舌苔厚く黄色味がかっている。
【鍼灸治療】
@(先ず第1に実を瀉す)
・・・曲池、足三里、内庭、三陰交に瀉法
A(次に筋の張り硬結のある経脈の疎通を図る)
  左下肢後側の突っ張り、腰背部の張り、
項部(天柱付近)頭半棘筋の硬結圧痛を除くため
・・・左申脈瀉法、これに左後谿を加え双手(同
時に)瀉法する。触診にて項部の硬結圧痛の消失
を確認、ならびに脈と舌の変化を確認。
《ここまでの治療で、自覚症状ならびに硬結圧痛が
消失すればBは行わないばあいがある》

B (神経解剖学的鍼灸治療) のため伏臥位に変わ
り左大杼・委中を双手瀉法し腰背部の緊張を除く
第3、第4、第5腰椎側へ刺鍼(深さ約70mm))

「神経解剖学的鍼灸治療」( B )疼痛領域の硬結圧痛
の認められる筋の神経支配から原因があると思われ脊椎を決め、脊椎側の神経根の真上を深く押し込み
ズーンとした重い痛み「深部圧痛」を確認する。この神経根を目標に刺鍼し当該神経の興奮を鎮静する
が、患者の感受性・反応によっては必ずしも神経根に到達する必要はない。) 
患者の感受性・反応によってはとは:刺鍼しながら刺鍼している腰神経の支配筋の硬結圧痛の軽減消失
を確認し半減以下になっていればそれ以上の刺入の必要はない。

第10胸椎〜第4腰椎までの棘突起の高さに対する神経根
の位置は、棘突起の高さを3等分した上から3分の1で後正
中線の外方20mmになる。

刺鍼角度は、第4腰椎までは皮膚面に垂直
に刺鍼し、第5腰椎では第4第5腰椎棘突起
の間の高さで後正中線の外方20mmから
約30度近くまで下肢方向へ傾ける。
【治療結果と考察】
治療後ピンシャンとして帰って行った。当時診療科名を「鍼灸」ではな東洋医学
的に治療することをかかげ「東洋医学科」としていたが、この患者が片脚を引き
ずって入室するところと普通に歩いて出て行くところを見ていた人がビックリした
顔で『この部屋は何をやっているのですか?』と訊ねてきたほどであった。
糖尿病があり大腿神経・座骨神経領域の神経症状が出やすく、このときの左下
肢麻痺も糖尿病による神経障害であるのか?と思い込んでいたが、これは間違
えで、脳血栓による一過性の脳虚血であったのではないか! 血栓が溶けて症
状が自然回復して行く過程に鍼治療が重なったもの思われる。
@Aの治療途中にほぼ麻痺は消失していて、仰臥位から伏臥位へ体位を変える
動作で左下肢の不自然さは全くなかったことを覚えている。
*糖尿病神経症障害では、主に手足の末端の手袋や靴下覆われる範囲にシビレ
や知覚鈍麻が生じることが多い。
糖尿病でPTR、ATRに鈍麻や消失があるところに脳梗塞など中枢性の麻痺が
重なって場合腱反射の亢進は・・・起こらない*が、バビンスキー反射は陽性とな
るので必ず行うべきだ。
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Dr.T解説
症例2 とは違い両側ではなく、片側(左)下肢一本麻痺している
内包と錐体部は一過性脳虚血や梗塞を起こしやすい



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【症例4】 硬膜外(下の誤り)血腫 
脳血栓ではないが頭蓋内の血液の凝固に鍼治療が有効かについての参照例として母の例。
姉と暮らしていた母が70代のとき、姉が帰宅すると脊柱管狭窄症で歩行が難かった母が床
に倒れていた。脳外科へ救急搬送すると硬膜外(下の誤り)血腫と診断されたが、担当医は
「この血腫は今日では1週間ほど前に生じたもの」だと言う。姉の話しでは「ちょうど1週間前、
美容院で体格の良い美容師さんに肩や頭を叩いてもらい、母が『気持ちいい』と喜んだためさ
ら強めに叩かれた」と言う。入院点滴治療を受け、退院後は服薬治療となる。
【鍼灸治療】
入院中より、血液に関する病変に対し改善効果が期待できる
ツボ「三陰交」と、脳へ影響を与えると思われる「照海」
(海は脳脊髄を意味する髄海を示す)を使用し毎日治療。
退院後の経過観察に受診するとMRI画像を見ながら驚いた
顔で『ずいぶん早く消えましね! お母さんは特殊な体質だ
と思います』と主治医は姉に話したという。

硬膜下血腫の後遺症として急速に認知症が進むだろうとの
主治医の指摘に反して89歳で誤嚥性肺炎で亡くなるまで、
新しいことは覚え難くなったものの会話は正常に出来る状態
であった。

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Dr.T解説

■ 硬膜は頭蓋骨の骨膜に張り付いていて、
硬膜外出血は頭蓋骨骨折によって起こるもので、
硬膜外ではなく鼓膜下出血ですね。
■ 硬膜下出血は、硬膜下の空洞「硬膜下腔」を、
硬膜とクモ膜との間を縦に走る静脈からの出血で
ゆっくり出血する。
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Dr.T解説

■ 硬膜は頭蓋骨の骨膜に
張り付いていて、硬膜外出血
は頭蓋骨骨折によって起こ
るもので、硬膜外ではなく
硬膜下出血ですね。


■ 硬膜下出血は、硬膜下の
空洞「硬膜下腔」を、硬膜と
クモ膜との間を縦に走る静脈
からの出血でゆっくり出血す
る。
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【症例5】 複視の症例

[1]眼窩部の良性腫瘍(血管腫)摘出手術後複視
を発症

初診、平成2008年6月23日 戸塚さん(仮名、横浜
市)45歳男性

1ヶ月前、左眼窩部の良性腫瘍(血管腫)摘出術を
受け、その直後より複視を発症した。手術では、腫
瘍が眼窩上部の骨に喰い込んでいるためその部の
骨も切除し、骨の形状に成型したチタンプレートに置
き換えた。そのために「眼の上部の筋(上直筋?)を
少しいじった」と主治医の説明を受けたと言う。
退院後、術後経過の診察で「複視が治らない」こと
を訴えると、主治医から『半年とか、一年、一年半と
いうスパンで治って行く』と説明されたという。中堅
ゼネコンの営業職で車の運転をしなければならない
ため、もっと早く治す方法はないかとインターネット
で当院を知り来院した。

複視は、両眼で視ると「左肩上がり」の傾いた像が
視え、患側左眼を閉じるとこの像は消える。

その他、頭皮の手術痕から左眼の上(チタンプレート
に置き換えた部)にかけて重く腫れたような、突っ
張ったような感じがあり触れるとピリピリする。ヘル
メットを着用していると熱感を感じるような鬱陶しさ
があると言う。
その他、慢性胃炎、腰痛症などあり。


図ー1

図ー2
【鍼灸医学的診断】
脈当初は細弱、その後、細やや数(脈拍80/分↑)の傾向、六部定位脈診では右関上やや有力、
左尺中虚。舌やや赤紫色胖大で歯痕がある。舌苔は白くやや厚くパサついている。上眼瞼黒い(色素
沈着シミなどは血=血行不良の類とみる)。
【鍼灸治療】
@ 先ず第1に脈診舌診から実を瀉し、虚を補う
初診から3回目治療までは脈細弱の傾向が強いため、足三里、三陰交瀉に太谿、合谷に補を加えた。
4回目以降は、脈有力となり細数傾向のため手足陽明は瀉法に加透天涼(熱を除く手技)とすし、
太谿、曲泉補法。(脈の数は脈拍数が多いことで熱のあることを意味しますが、この日、患者はチタ
ンプレートが入った左前頭部の熱感を訴えていた。)
A 次に経脈の疎通(ソツウ気の流れをスムーズにする)筋の張り硬結は気の流れが鬱滞することにより生
ずるため、気の流れを改善すれば筋の張りや硬結は緩解を図る。
身体の前面は陽明経脈、側面は陽経脈、後面は太陽経脈を用いる。
 ○身体の後面:左項部の張り硬結に対しては、左手足太陽経脈の後谿・申脈を双手瀉法。
   項部頭半棘筋を横方向にゴリゴリと揉んだときの凝りと痛みが消失もしくは軽減する。
 〇身体の側面:大腿外側の張り硬結圧痛や肩上部僧帽筋(肩井付近)の肩凝りに対しては、手足少陽
  経脈外関・足臨泣を双手瀉法する。
 ○身体の前面:左額から前頭部の腫れぼったさに対しは、手足陽明(曲池または、合谷と足三里など)を
   双手瀉法。前頭部の腫れ熱感が軽減。B Aの経脈的刺鍼で頚肩部の硬結圧痛が残った場合、神
  経解剖学的刺鍼にてこれを除く。
項部頭半棘筋付近の硬結(筋緊張亢進)圧痛に対しては、第2、第3、頚神経の緊張を静めることが有効
で、仰臥位で枕をやや高くした姿勢で圧痛をみます。
第2頚椎横突起の後ろ、同椎関節突起の上
面から前に(横突起へ)向けて矢状方向に指
頭で押し込むと強い圧痛がある。
これは第2頚神経後枝(大後頭神経・小後頭
神経・後耳介神経など)の圧痛で、第2頚椎横
突起後結節後方20mm付近からほぼ矢状方
で刺鍼すると刺入深さ10〜20mmでズーンと
した重い鍼感がある。
項部の硬結圧痛を圧して確認すると軽減〜消
失していることが多い。
不十分であれば第3頚椎横突起後方から同様
に刺鍼する。第3後頭神経の緊張が除かれ項
部の圧痛は消失する。
なお、この第2第3頚神経(後枝)の刺鍼は僧帽
筋の筋緊張亢進(凝り)の除去にも有効で、この
ことは頚神経後枝ならびに後枝支配の自所的
筋群への刺鍼刺激が脊髄を介して頸髄C2,3,4,
に起こる副神経支配の僧帽筋の緊張を除いた
ものと理解できる。

図‐3
*上部頚椎(第1〜4)の椎間関節から項部にかけての筋緊張(圧痛硬結)を除くことは治療上重要なことと思える。この部の緊張と交感神経の緊張が関連しているように思えるのだが?≪余談ですが、五十肩などの治療で肩関節周囲の筋群の筋緊張を緩和したばあい、肩関節亜周囲の筋群の神経支配は第4、第5、第6頚神経前枝)ですが、先と同様の取穴で第4、第5、第6頚神経後枝もしくは、後枝支配自所的筋群(関節突起付近の多裂筋など)の刺鍼刺激が脊髄を介し肩関節周囲の筋群の緊張亢進(硬結や凝り・圧痛)を軽減〜消失します。頚椎症性神経根症の治療にも同様の刺鍼法方で対応できます。≫
【経過と結果】経過中、胃痛、上腕部痛、腰痛、下肢痛、咽喉の痛み、カゼによる発熱
           等の治療を併用したが省略する。
6月23日(初診)〜7月15日(8回目治療) 複視不変。左前頭部から上眼窩の違和感鍼治療直後は軽減するが効果は持続せず、熱感やヅキヅキ痛むことがあると言う。
7月25日(9回目治療) 複視改善傾向の自覚あり。『左方向を視るときは良くなっているが、右方向を視ると複視のズレが大きくなる。』と言う。これは、左眼の筋力低下のある上直筋に対し優位にある下直筋の眼球を回旋
する作用が左外方を視るときは弱く、右内方を視るときには強く作用するためと思われる。
8月7日(10回目治療) 複視はなくなったと言う。仕事中パソコンを見ていると焦点が定まらないと言う。眼精疲労。
8月21日(12回目治療) 極端に右外方を視るとズレて視えるが、日常的には全く気にならなくなったと言う。
8月31日(14回目治療) 複視は特に訴えなし。左前頭部腫脹感、ならびにこめかみから眉の上{額}を擦るとピリピリするとの訴え。
9月23日(17回目治療) 複視はさらに改善し極端に右外方を視ても気にならないと言う。左前頭部の重く張った感じは続いているが、皮膚のしびれは軽減している。
その後、来院なく、1年後、肩上部の『凝りが1ヶ月前続く』と来院。
左前頭部の違和感は続いているが、『たばこを吸わないと軽減し、熱いシャワーを浴びていると消失する』と言う。
 その4年後、やはり左前頭部は腫れぼったく感じ眉から眼の奥が重く、局所に熱感を感じ冷やすと楽になる状態が続いていると言う。
そのさらに2年後(手術から6年後)、左前頭部の違和感訴えなくなる。特記事項、タバコを止めたと言う。
この患者の複視は手術による外眼筋(上直筋)に受傷しこの傷の治癒をもって複視が治ったもの。
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Dr.T解説
■ 眼を動かす筋肉「外眼筋」

図ー4 左眼上直筋と下直筋
   上直筋・・・・・・・・・・・・・動眼神経
   下直筋・・・・・・・・・・・・・動眼神経
   内側直筋・・・・・・・・・・・動眼神経
   下斜筋・・・・・・・・・・・・・動眼神経
   外側直筋・・・・・・・・・・・外転神経麻痺
   上斜筋・・・・・・・・・・・・・滑車神経
■ 上直筋は眼球を上へ向けるとともに
  上内方へ回旋させる。
  下直筋は眼球を下へ向けるとともに
  下内方へ回旋させる

■ この症例では、麻痺した上直筋に対して優位と
  なった下直筋作用で眼の向きが下内方へ向く
  斜視位となり時計廻りに回旋するため、上下縦
  方向のズレるとともに左肩上がりに傾いて視え
  る複視となる。
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