公益財団法人日本眼科学会ホームページより

翼状片とは

 翼状片とは、白目の表面を覆っている半透明の膜である結膜*注が、目頭(めがしら)の方から黒目に三角形状に入り込んでくる病気です。自覚症状としては充血や異物感などがあります。鏡で自分の目をみれば一目瞭然なので、「白目の一部が黒目に伸びてきた」というような症状で受診される人がほとんどです。しばしば両目に起こります。原因は不明ですが、高齢者に多く病気の発生には紫外線が関係しているといわれています。

*注:白目部分は、一番下が強膜、その上がテノン嚢、その上が結膜、と言う3層構造になっています。
    その真ん中のテノン嚢が異常に増殖しものが翼状片です。

翼状片の症状

血管がたくさんできるため白目が赤くなります。


炎症部分が盛り上がってくると、まばたきでごろごろと感じます。


角膜(黒目の部分)に進入してくると、黒目が欠けて見え見た目が悪くなります。


翼状片が角膜に進入し収縮すると、角膜が引っ張られて歪むために乱視が生じ視力が低下します。


極度に進行すると、角膜中央部の瞳孔にかかると、さらに視力低下がひどくなります。



翼状片の治療(眼科での)

 翼状片自体は悪性の組織ではなく、症状がなければ放置しても問題はないのですが、充血や異物感が強くなってくれば点眼などの治療を行います。根本治療には手術が必要です。また、翼状片が瞳の近くまで伸びてくると乱視が発生して見えにくくなるため、この場合も手術が必要となります。ただし、手術を行っても再発することが多くこの傾向は年が若いほど顕著です。


◇ ・・・というように手術しかないと思われている翼状片ですが、



鍼治療で治ります!

翼状片 治療のポイントは:鍼灸医学的に考える

鍼灸医学は現代医学と全く別の医学体系です。鍼灸医学は陰陽理論、五行論など古代中国の思想に基づき体系化された一つの医学なのです。


翼状片は、鍼灸医学の古典に「じわじわと肉が瞳に攀(よじのぼる)」病気と記されています。


当院のはり治療にて翼状片が薄くなった患者さん


◇鍼灸医学的原因は二つ

@ 心肺風熱が経絡に(オ:「やまいだれ」に「於」という漢字が入る)滞して起こるもの


(オ)とは「停滞」「堆積」する意味で、心肺に入り込んだ風熱(風邪と熱邪が一緒になったもので、熱による感冒)の邪気(風は表邪なので心肺に入る主体は熱邪となります)が、経絡に伝わり、そこでまた停滞堆積鬱滞すし、その局所で熱の影響が出たもの・・・と考えます。熱は陰(水分)を消耗しますから、眼であれば眼の乾きドライアイ、充血=赤い色は熱の現われと見ます。また、チリチリ痛む(または、ヒリヒリ痛む)などは熱による痛みと考えられます。


A 脾胃湿熱蘊蒸が経絡に血滞を生じ起こるもの


蘊(ウン)は中におしこもる・おしこめる意味で、蒸は立ち上る熱気ですから、湿熱の熱気が経絡に押し込められ経絡の流れが阻滞し血滞が生じます。血滞(血液の流れの滞り)も長く続くと熱を生じ熱となり症状を悪化させます。



≪ 参考 ・ メモ ≫


上述、「@ 心肺風熱」の「風熱」は、それぞれ「風(邪)」「熱(邪)」と言う鍼灸医学での病因(邪気)が合したものです。現代医学で翼状片の原因の一つされる紫外線の影響は、鍼灸医学で言えば「風熱」の邪と解釈することになります。鍼灸医学での病因は、外界からだを襲って来るものを「外因」と呼び「風(邪)」「寒(邪)」「暑(邪)(暑=熱)」「湿(邪)」「燥(邪)」「火(邪)」の6つを考えます。これらを「六淫(ろくいん)」の邪気と呼びます。

上述、「A 脾胃湿熱蘊蒸」の「湿熱」は、「@ 心肺風熱」の「風熱」と同様に「湿」と「熱」が合したものですが、正確には「六淫」の邪気の「湿(邪)」と「暑(邪)(暑=熱)」の邪気が合したものだけではありません。
鍼灸医学では、病因として「外因」(六淫の邪気)の他に、さらに「内因」と「不内外因」を考えます。
「内因」とは「怒、喜、思、意、憂、悲、驚」などの「七情(情動、感情)」の乱れを言い、「不内外因」は、飲食や労倦(過労)、寝不足、房事過多・・・と言った生活上の不摂生を病因として考えます。
ここで問題の「脾胃湿熱」の「湿熱」ですが、中焦の脾臓と胃に湿熱が停滞していると言う意味ですが、
その発生原因の大部分は、この「不内外因」の「飲食の不摂生」か「労倦(過労)」によって脾気の水湿の運化機能が低下することによります。
また、外邪、六淫のなかの「湿邪」を「外湿」と呼び、内因、不内外因によって発生する「湿(邪)」を「内湿」と呼びます。
この外湿と内湿は、ともに脾気と関係が強く、脾気の働きである水湿の運化作用によって処理されます。したがって、「飲食の不摂生」や「労倦(過労)」によって脾気が虚し、水湿の運化機能が低下すると、「内湿」が発生しやすくなるとともに、「外湿」にも犯されやすくなります。
また、脾気(働き)は、不内外因の「飲食の不摂生」や「労倦(過労)」の他、内因(七情の乱れ)の「思(思い悩むこと)」にも影響され、水湿の運化が停滞します。この水湿の運化=水分や湿気を運搬し変化処理する作用によって、胃に入った飲食物が消化され腸に運ばれ吸収されるわけですから、この働きが落ちると食欲はなくなり、水湿は胃に停滞し、停滞が長引くと化熱し湿熱となります。また、飲食物によっても胃熱を増すものがあり、その偏食によりさらに熱を増すことになります。また、もともと、食欲旺盛の人では胃熱が盛んな体質と言えます。胃熱と水湿内停との程度の差で食欲があったり、逆に胃が重く食欲不振であったりと言うことになります。


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◇鍼灸医学的診断

@心肺風熱では、

脈診(脈状診)では、、特に寸口(六部定位脈診参照)が浮位に柔らかい脈(浮脈)が触れて、沈めると触れ難くなります。脈が柔らかく浅いため、強く押さえて沈位(深い部位)「陰」が虚していると見るのは誤りとなります。
また、心肺に熱邪が及び風邪の表症がおさまってくれば脈位は浅い皮膚表面に触れる浮位から中位へ移ります。

舌診では、舌苔が黄色い、もしくは茶褐色、灰黒色でベタ付きは少ない。風熱外感の初発時では、苔の厚さは薄く淡い黄色、もしくは微黄、進行するにつれ苔の厚さは増し、黄色も濃くなり茶褐色となり、裏に入ると灰黒色となるばあいもあります。舌質は赤味が強く胖大のことも、歯痕はない。

風熱の邪気を感受(外感風熱という)したばあい、感冒の症状として発熱が起こります。風寒の邪気の感受とは異なり悪寒はありません。ただし、風邪が盛んだと「悪風」と言って風邪に当たるのを嫌がるばあいがあります。また、逆に熱邪が盛んで暑ければ冷風を好むこともあります。
その他、口や咽喉の渇く、咽頭痛、眼が赤い、鼻血が出やすいなど風熱感冒の症状が出ますが、これは初期の急性期におけるものです。 心肺風熱が経絡に滞し翼状片を生じるのは、初期の感冒症状が落ち着くか、または、あまり激しくなく、それでいて熱が深く心肺(胸中、上焦)入り込み鬱滞し続けたばあいと考えられます。その熱が眼の経絡の滞を起こすものと考えます。また、翼状片は眼頭(内眼角)から瞳孔へ向かい発生しますが、眼の充血の血管が内眼角から伸びるばあい心熱を意味しますから、翼状片は心熱との関係が深いと考えられます。また、眼の白目の部分は肺と関係するといわれています。

切経(経脈の走行流注部位を触診することを切経と言います)では肘の少海(心経)曲沢(心包経)孔最(肺経)などの付近前腕部に硬結、圧痛が診られます。


A脾胃湿熱蘊蒸では

脈診数、浮いて軟らかい脈を触れます。

舌苔は黄色くねっとりして汚く、ぬぐっても取れません。その他、身体がだるい、腹が張り食欲がない、みぞおち付近に痞えた(つかえた)感じがします。人によってはムカつき感があります。


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◇鍼灸による翼状片の治療は・・・

@心肺風熱では、


晴明(眼頭のところ足の太陽膀胱経のツボ)
合谷(手の甲人差し指の付け根の骨のところで、手の陽明大腸経もツボ)
神門(手首の正面小指側の手の少陰心経のツボ)

・・・・・・これらのツボに、刺鍼し風熱邪気の実を取り除く「瀉法」*注1の手技を加えます。

A脾胃湿熱蘊蒸では


晴明(眼頭のところ足の太陽膀胱経のツボ)
足三里(足の前脛骨筋上部のところ足の陽明胃経のツボ)
陰陵泉(下腿部脛骨内側上部のところの足の太陰脾経のツボ)

・・・・・・これらのツボに刺鍼し、脾胃に停滞した湿熱と、眼の周囲の経絡に停滞した湿熱を除去します。



≪ 参考 ・ メモ ≫


晴明:@心肺風熱、A脾胃湿熱蘊蒸、両者ともに治療穴として眼の近位穴「晴明」を用います。翼状片は眼頭側から発生して行くため当然ですが、晴明穴は眼球に近く、ここから真っ直ぐ刺鍼(直刺)すると鍼は眼窩へ向かい眼球近くに刺鍼することになります。また、眼球の大きさには個人差があるため危険な場合も予想されます。晴明穴の代わりに晴明穴の上、眉頭にある「攅竹(さんちく)」穴を用います。
攅竹穴の刺鍼は、晴明穴へ向け皮下に沿って5〜6mmから1pほど平刺します。ここにイオンパンピングコード(鍼の頭にとめるワニ口クリップ付のコードで中にダイオードが入っていて電流が一方向にしか流れない)を取り付け、足の太陽膀胱経の下流足部のツボへ刺鍼した鍼へつなげアースします。

合谷は顔面、口、眼の治療に良く使われます。手の陽明大腸経のツボとして作用します。同じ大腸経のツボ「曲池(きょくち:肘の外側のところのツボ)」を使ってもよい。顔面部は陽明経が循環しているためと、風熱を取り除く作用があります。

神門は心経のツボで、心熱を除きます。心は「木・火・土・金・水」の五行分類で「火」に分類されます。また、眼は「肝臓が司る」とされますが、明暗、光を感受する機関で、五行分類的には「火」になるもので「心」と関わりが深くなります。前腕部の切経、心包経の曲沢穴付近の硬結圧痛が強ければ「内関」穴を追加し瀉法加透天涼とします。内関穴には、胸中を和す作用があります。

足三里穴は足の陽明です。上の合谷穴、曲池穴は手の陽明ですが、全身の経脈の循環では手足の陽明同士(他の少陽経脈、太陽経脈も同じですが)一本につながって流注しています。陽明の経脈は手の指から始まり、腕を上向し肩から首、顔面へ至り眼に入ります。そして眼で連絡し足の陽明として眼から出発し体幹部を下り足へ流注して行きます。
ですから、@心肺風熱のばあいも、A脾胃湿熱蘊蒸のばあいも、合谷または曲池と、足三里をに刺鍼し、流注の上流に当たる手のツボと、下流に当たる足のツボを左右の手で同時に瀉法の手技を施す(双手法)を加えるとより効果的です。このばあい、翼状片が右眼であれば、左の合谷または曲池と右足三里を用います。左眼であれば、この逆、右手と左足です。何故か、と言いうと霊枢経脈篇には手の陽明は鼻の下の水溝穴にて右は左、左は右へ交差して鼻の外側に沿って眼の内側、晴明へ上って行くとされています。
また、足三里穴は、五行分類で足陽明胃経「土の性質の経脈」の「土の性質のツボ」にあたり、心「火の性質」子に当たるため、『実してはその子を瀉す』の法則に当てはまり、「心火」を除く作用があります。このため「@心肺風熱」に対しても、眼の内眼角がら充血した血管が伸びる(心火の症状)にも有効です。

陰陵泉は脾経のツボで水湿の運化を健全にします。利湿除湿の作用の強いツボです。

熱が強ければ、さらに、内庭(ナイテイ:足第2指3指の付け根の間にある足の陽明胃経のツボで熱を除く作用に優れる)を追加して用い、瀉法加透天涼とします。

血(おけつ)がひどければ、さらに、三陰交(サンインコウ:足首内側のところにある足太陰脾経のツボ)に刺鍼し瀉法の手技を加え活血化とします。

熱は陰を消耗しますから、長期に熱のあるばあい、陰の虚が起こります。先ず熱を除き、陰虚がのこるばあい、復溜(フクリュウ:足首内側アキレス腱の前のところの足少陰腎経のツボ)を補います。翼状片は実証ですので、先ずは充分に風熱、湿熱を取り除くことが大切です。特に平素からドライアイの傾向が強いばあいは、腎陰虚証に留意します。

「瀉法」*注1:とは、「実」に対し用いる手技操作で、これによって「邪気」「余剰の気」を取り除きます。
鍼灸治療では、陰陽虚実を調整し調えます。脈診や舌診、切経、諸症状から虚実を判断し、用穴を決めたのち、刺鍼(鍼を打つ)しますが、それだけでは充分な効果は出せません。
虚実を判断し「補法」または「瀉法」の手技を刺鍼した鍼に加えます。「実」とは「邪気の存在」、「気の余剰」が病気の原因です。これを「瀉法」の手技操作で取り除きます。逆に、「虚」に足しては不足した正気を「補法」の手技操作で補うことになります。

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◇鍼治療は体に備わる自然治癒力を活発にして病気を治します。

たとえば、爪周囲炎(下写真)の肉芽増殖部分なども、自然に吸収され元通りに治ります。



これは、マクロファージ(リンパ球・組織球)などが吸収処理してくれるからですが、翼状片においても同様の治癒の機序が働くはずです。切り傷の後の瘢痕や手術痕がケロイド様にピンク色に盛り上がることがありますが、鍼治療でこのピンクの盛り上がりは退消して行きます。翼状片は良性腫瘍と言われていますが、私の私見では、結膜にできた傷の治癒過程が正常に行かず肉芽増殖が過剰になったものように思えます。治癒の過程を狂わす、増殖し過剰になる陽性の変化の要因は「陽性の邪気」「熱邪」これを取り除けばよいわけです。

翼状片は、眼頭がわから起こるのが一般的ですが、目尻側や、上下からも稀に起こることがあるようです。眼頭側には涙の排水口である涙点がありますから、眼を洗い流して汚れた涙は眼頭側に溜まります。このため眼頭側の方が炎症が起きやすいと考えられます。
また、鍼治療は炎症が起きやすくなった体の変調を正常に戻します。これはアトピー性皮膚炎や頭皮湿疹などの発赤が鍼治療により軽減、退消して行くことでも分かります。


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