セイ鍼灸院ホームページ


東洋医学的治療各論:消化器系の症状

胃痛や胸焼けについて、長いこと当ホームページに記載せずにいました。こう言ってはなんですが、あまりに初歩的なため改めて書くほどのことでもないように思えていたため、後回しになっていたものです。検索して記述が出ないため、胃の症状は、はり治療の適応でないと誤解された方もいらっしゃかもしれません。申し訳ありませんでした。



 当院の鍼治療は、「脈診」と「舌診」から判断して行いますが、「脈診」で健康な人の良い脈の状態を「胃の気の脈」とか「脈に胃の気がある」と表現します。その「胃の気の脈」とは、強すぎず弱すぎず適度の力強さと柔らかさで、速すぎず遅すぎず(適度の脈拍数、おおむね60〜80/分)、規則正しいリズムで拍動する脈を言います。これを何故「胃の気」と表現するかと言うと、経脈の循環は中焦(上腹部)の胃から始まり飲食物の精気(栄養分)をもととしているからです。
脈が強すぎるときは「邪実」として刺鍼に「瀉法の手技」を加え、これを取り除きますが、この場合よく用いられるのが胃の治療穴でもある陽明胃経の足三里と言うツボです(症状や他の要素から違うツボの場合もありますが)。
また、弱ければ「正気の虚」として補法の手技を加え補いますが、この場合にも足三里を用いることがあります。胃を補って「胃の気」を増すわけです。
このように脈診による治療自体が「虚実補寫」(虚は補い、実は瀉す)として胃腸を整えることにつながっています。

また、「舌診」では、舌本体(舌質と言う)と舌の表面のの状態を観察しますが、鍼治療の前後では舌質・舌苔に変化があります。よく「舌の苔が厚く汚れていると胃が悪い」と言われていますが、不健康な舌の状態が健康な状態に改善すると胃の症状も改善するのです。
たとえば、舌質が血色淡くぼて〜っとむくんで周りに歯の痕がついているような場合、食欲不振や胃腸の働きが弱っています。脾胃を補う治療をすることになります。苔がベッタリ厚い場合は、胃に食物が停滞し胃もたれなどがあります。苔が黄色く乾き気味であれば胃熱状態で、胃痛が強ければ胃の粘膜が胃炎で荒れていることが疑われます。



■ 胃 痛

胃痛はよくある症状ですが、どうして胃が痛くなったのかと言う原因によって鍼灸治療は異なリます
だれでも経験したことがある代表的な胃痛と言えは、食べ過ぎて胃が痛いと言う暴飲暴食と、また、これもよくあるストレスで胃が痛いと言う二つでは治療法がことなりそれぞれに合った治療法を用いることになるのです。
【暴飲暴食】の場合と、ストレスで胃が痛い【肝胃不和(または肝気犯胃)】の場合、また、冷たいものを飲食すると痛みが増すタイプの【脾胃虚寒】の三つタイプについて説明していきます。


まず、単純に食べ過ぎて胃が痛い【暴飲暴食】について説明しましょう。
食べ過ぎて胃が痛い【暴飲暴食】では、胃の消化能力を超えて胃の中に飲食物が入ったために胃部の気の流れが鬱滞し痛みが起こります。
治療は、膝のお皿の下で脛スネの骨の外側にある「足三里」(下図参照と言うツボを使います。胃の経脈の気の流れは上から下に流れますが、暴飲暴食によって停滞している気の流れを下へ降ろす作用があります。気の流れが回復するとともに胃の内容物も下に移動し胃の働きも回復して行きます。この足三里に合わせて、上腹部中央の「中カン」(図参照)と言うツボを用います。これにより「消食導滞」と言って、消化と滞った飲食物の流れを良くします。吐き気があるものには足の内側の「公孫コウソン」(下図参照)と言うツボを加えます。鍼の手技はすべて実邪を取り除く瀉法となります。


ストレスで胃が痛くなるタイプを【肝気犯胃】と言います。精神的ストレスを受けると肝の気の流れが鬱滞し肝蔵に充満した気が暴れるようになります。その充満した気が上へあがれば咽喉に物がつっかえた感じ、咽喉の異物感や偏頭痛などを起こしますが、肝蔵と胃は隣接しているため充満した肝気が暴れると影響を受けやすいのです。とくに、五行で胃は「土 ド」に属するのに対し肝は「木 モク」に属し、肝(木)が胃(土)尅する関係にあるとされるため、ストレス⇒肝気鬱滞⇒肝気犯胃=ストレス性胃炎の関係となってしまうのです。
治療は、上の暴飲暴食での胃痛に用いた「足三里」で【和胃調中】胃を穏やかにし中焦(上腹部)の気を整えるとともに、足の甲の第1・第2中足骨の間にある肝経のツボ「太衝タイショウ」を用い肝気の流れをよくしします【疏肝理気】。胃を整えるためにさらに「中カン」を、気の流れを促進するために手首の上、前面にある「内関」を加えるのも良いでしょう。鍼の手技はすべて実邪を取り除く瀉法となります。


冷たいものを飲み食いすると胃が痛くなるタイプを【脾胃虚寒と言います。このタイプの人は、疲れやすく、疲れると食欲不振となります。また、心配性で心配事があると胃が働かなくなり胃痛症状も増悪します。胃が重く、食べたものがいつまでも胃にある感じがします。
治療は ⇒ 胃痛と飲食物の滞留に対して「足三里」「中カン」を用います。鍼に瀉法の手技を加え、さらに灸にて冷えを除きます。体質的に脾胃の陽気が不足するタイプですので、下腹部の「関元」に灸をし元陽を補い、お臍の「神闕」に灸をし脾の陽気を補います。





■胸焼け・逆流性食道炎・嘔吐

逆流性食道炎と診断されたと言う方は多いようにおもいます。高齢者では、加齢二より胃の上部(噴門)につながる食道の括約筋(下部食道括約筋)が弱くなり逆流が起きやすくなるとも言われます。しかし、もともと日本人には少ない病気だったようですが、食生活の欧米化で脂肪や油分を多く含む食品が増えたせいもあるようです。
これらの症状を「胃気不降」「胃失和降」「胃気上逆」などと言います。「胃気」とは「胃」の働き作用と言うほどの意味です。胃は食物消化し下方の腸へ送り出す器官です。その気の流れは下降性です。穏やかに下降することが順で、「胃気不降」「胃失和降」「胃気上逆」は下降しないことを現しています。その原因としては、○食傷、○胃火(胃熱)、○痰湿阻滞、○胃寒(胃の冷え)などがあります。


〇食傷・・・・・・・・・・・・・・暴飲暴食や食中毒にいより起こります。
治療は ⇒ 胃気を下げる作用が強いツボ足三里に刺鍼し瀉法の手技を加えます。舌苔が黄色ときは化熱(熱に変化)していますので、透天涼の手技を加えるか、熱を除く作用の強いツボ内庭に刺鍼し瀉法を加えます。


〇胃火(胃熱)・・・・・・・・ 胸焼けは「胃火」上逆です。油で炒めたり揚げたりした食品(燥熱性の食品と言います)の過食偏食により起こります。
治療は ⇒ 胃気を下げる作用が強いツボ足三里と熱を除く作用の強いツボ内庭に刺鍼し瀉法を加えます。
*肝気逆が係わるばあい:太衝瀉を優先する。

■ 口が苦い・口臭が強いなども胃熱の症状と考えられます。胃熱を除くはり治療で軽減・解消した方もいます。


〇痰湿阻滞・・・・・・・・・・「痰」は気管から出る粘性の液を意味しますが、鍼灸や漢方医学では他の器官に生じた粘性の液体も総じて「痰」と呼びます。「湿」は外邪(体外の環境からの病因「風寒暑湿燥」)の一つの名称ですが、ここでは体内に発生した「内湿」を意味します。体内での水分・湿気の停滞が長く続くと病気の原因に変化すると考えます。水湿を運化(移動・変化、処理)する力は脾気(脾の陽性の気)にあります。この不足・衰弱と関係して「痰湿阻滞」が起きるます。
治療は ⇒ 痰(痰湿)を除去する作用の強いツボ豊隆(ほうりゅう)を用います。豊隆、中に瀉法の灸をします。灸の熱は陽性の刺激として陰性の邪気である痰湿を効果的に除去します。邪気を除く意味でこの灸は瀉法として用いられたことになります。もちろん瀉法としての灸のすえ方がありますが。
刺鍼では、豊隆、陰陵泉に瀉法、中に瀉法の後灸します。陰陵泉は水湿の運化をつかさどる脾の経絡のツボで、脾は水湿や痰があるとその機能が減退します。陰陵泉瀉によって水湿が除去されるとその機能が回復されます。
脾気脾陽の虚の程度が著しい場合には、先の『豊隆に瀉、中に瀉法を施した後灸を加えて痰湿を除き』の処方の後、関元、神闕に灸を加え水湿をの運化をつかさどる脾気脾陽を補い助けます。


〇胃寒(胃の冷え)・・・・冷飲食の過剰、偏食、及び陽気の不足によります。
治療は、上述の【脾胃虚寒】に同じ ⇒ 胃痛と飲食物の滞留に対して「足三里」「中カン」を用います。鍼に瀉法の手技を加え、さらに灸にて冷えを除きます。体質的に脾胃の陽気が不足するタイプですので、下腹部の「関元」に灸をし元陽を補い、お臍の「神闕」に灸をし脾の陽気を補います。





■ 食欲不振

〇心配事があると食欲がなくなる【心脾両虚】
 「思い悩むと脾を傷つける」・・・とは、
鍼灸医学では古代より、五臓に「意志情動」が関係すると言う「心身医学」的な見方をしています。鍼灸医学の原典では、『うれい悲しむ「憂愁」がつづき解けないと「意」を傷つける』とされ、「意」とは『心に有るところの「憶オモイ」』のことだと言います(「脾憂愁而不解則傷意」「心有所憶謂之意」≪霊枢:本神篇第八≫)。また、『脾は意を蔵す』と記載され(脾蔵意≪霊枢:九針論篇第七十八≫)ていることからのようです。ただ、五行分類で「情動」を五つに分けた場合、「憂愁・うれい悲しむ」は「肺」に配分され、相違しているようにも見えますが・・・。五行分類の母子関係で「金の属性の肺」は「土の属性の脾」の「子」に当たります。母子関係ですから、「母である土の脾」は「子である金の肺」に気を送り養育しています。「肺」が傷つき弱れば母でる「脾」の負担は増え「脾」自体の気も不足し衰弱していきます。これを「子盗母気」と言います。また、これに続いて「土の属性の脾」弱ればその母である「火の属性の心」も影響を受けます。もっとも、「心」は精神性の中枢「神」を宿していますからその影響は大です。
したがって、「うれい悲しみ・思い悩めば、心脾両虚」となります。ここでは子である「脾」症状がより強くでます。
鍼灸医学での「脾(臓)」は現代医学の脾臓とはかなり異なり、その働きは、胃腸を管理し消化吸収と水分栄養分の運搬を行います。また、中央に位置する「脾」は、封建制度国家において「中央(君主)は四方(地方)を支配する」との概念から「脾は四方(四肢)をつかさどる」とされ、手足っが怠い、力がなえるなども「脾」の症状とされます。

治療は、足の太陰脾経「太白」穴や足の陽明胃経「足三里」穴、手の厥陰心包経「大陵」穴、または、手の少陰心経「神門」穴、手の陽明大腸経「合谷」穴などを補います。

〇湿濁困脾
「水・湿」「濁・飲」が停滞することにより更に脾気脾陽を傷つけ「脾気虚弱」の症状を増悪します。

治療は、原因となる「湿濁」を取り除くことにあります。足三里、陰陵泉瀉法です。
「濁・飲」の影響が強ければ、脈は滑やや有力となりますが、「水湿」とくに「湿」の影響が強い場合には、緩、軟、の柔らく弱い触れ難い脈となり、特に、六部定位脈診の比較で右関上(脾胃)の脈が虚脈となます。「湿濁」の邪気を取り除くたまの瀉法を行わずに「脾虚」として補法を加えると「湿濁」の邪気を内に追いやる誤治となります。前記瀉法を先ず行い「湿濁」の邪気が取り除かれる(湿邪は粘着性で完全には除き難い)と補法を用いなくても右関上(脾胃)の脈が起きてきます。脈の起き方が弱ければ、舌・舌苔の状態を確認し「湿濁」の所見が消えていれば陰陵泉に補法を加え、「湿濁」の所見が残っていれば陰陵泉の刺鍼に平補平瀉の手技を施します。中焦(中)を圧迫したときの重い不快感の軽減変化なども目安となります。
「湿濁困脾」が進むと、脈診所見は「脾虚」的状態から「脾腎両虚」的状態となります。特に「湿邪」の影響「正邪」としては「脾」が受けますが、「湿」=(土)は、「腎」=(水)に対して「土克水」の「賊邪」のあたりより強い悪影響を与えます。くれぐれも「瀉法」なしで「補法」を行わないことです。腎へ病邪を追い込む結果となりかねません。 

〇飲食不摂生と過労
「飲食不節」は不摂生、暴飲暴食の「過食」と「拒食」、生ものや冷たいものの「冷飲食」、味の濃いものや香辛料の偏執、などです。これらは「脾胃」の不調の原因となります。「労倦」




《編集中》



■ 過食

〇胃熱

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■ 便秘・・・・
・・・虚証と実証に分けます

実証のものでは
〇胃腸に気熱が多過ぎるタイプ(陽明腑実証)
 ・・・ このタイプの人は食欲旺盛で暑がり、赤ら顔、口が乾く、口臭が強いなど
 → 治療に用いるツボ「天枢、中、足三里(または上巨虚)」瀉法、または「天枢、合谷、内庭」瀉法、

〇ストレスなどによる気の停滞(気鬱)によるもの
 ・・・ このタイプの人は「旅行中便秘になる」や「会社出勤のウイークデーは便秘がちになる」など
 → 治療に用いるツボ「太衝、天枢、気海、足三里(または上巨虚)」瀉法

〇食滞(主に過食による飲食物の滞り)によるもの
 → 治療に用いるツボ「天枢、中、足三里」瀉法

〇下降すべき気である肺気が下降しないため(肺気不降)起こる便秘[注:消化管の下降性の流れは、胃気と肺気の下降性の気の流れに促進されるため]
 ・・・ 咳(肺気上逆)や息苦しさなど起こしやすく、小便が減り浮腫をともなうばあいがある
 → 治療に用いるツボ「天枢、尺沢」

虚証のもの
〇陰虚・血虚によるもの
・・・陰液(水分)や血分が不足すると、腸の潤いがなくなり便秘となります。
→ 治療に用いるツボ @陰液・水の不足では「復溜」補 A血虚では「太谿三陰交」補




■便秘による糞便臭・・・・・小田原の少女の症例


■下痢




■お腹が張る




■お腹のツボ と お腹に効く足のツボ

下腹部のツボの名前の読み方と経絡名 
ーーーーーーーーー任脈(にんみゃく)ーーーーーーーーーー
(ちゅうかん)  ■水分(すいぶん)  ■神闕(しんけつ)
気海(きかい)  関元(かんげん)
ーーーーーーーーー足の少陰腎経ーーーーーーーーーーー
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ーーーーーーーーー足の陽明胃経経ーーーーーーーーーー
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ーーーーーーーーー足の太陰脾経ーーーーーーーーーーー
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ーーーーーーーーー足の厥陰肝経ーーーーーーーーーーー
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ーーーーーーーーー足の少陽胆経ーーーーーーーーーーー
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腹部のツボ
ツボの名前の読み方と経絡名
ーーーーーーーーーー足の陽明胃経ーーーーーーーーーーー

足三里(あしさんり)  ■上巨墟(じょうこきょ)  ■下巨墟(げこきょ)
豊隆(ほうりゅう)  ■解谿(かいけい)  ■内 庭(ないてい)


ーーーーーーーーーー足の太陰脾経ーーーーーーーーーーー
陰陵泉(いんりょうせん)  ■三陰交(さんいんこう)  ■公孫(こうそん)
太白(たいはく)


ーーーーーーーーーー足の少陽胆経ーーーーーーーーーーー

陽陵泉(ようりょうせん)  ■丘墟(きゅうきょ)  ■足の臨泣(あしのりんきゅう)


ーーーーーーーーーー足の厥陰肝経ーーーーーーーーーーー

行間(こうかん)  ■太衝(たいしょう)  ■中封(ちゅうふう)







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