頭部、顔面、眼、耳などの症状への鍼治療
頭部、眼、耳、鼻などの症状への治療ですが、先ず、問診により患者さんの訴えを詳しく聞き、脈診、舌診などからの情報とともに東洋医学的に治療法を考えます。
たとえとして、頭痛を例にとって説明してみましょう。
治療には東洋医学的に病気の原因(病因)を判断することが大切です
東洋医学的に病気の原因(病因)を見ると、その病因ごとに特徴的な痛み方や随伴症状をともないます。その特徴と脈診や舌診などを合わせ病因を判断しそれに対する処方、つまりツボの選択と手技操作の決定をします。
東洋医学で考える病因には、次のようなものがあります。
風、熱、湿、痰、気虚(または実)、血虚(または実、汚血)など
それぞれの病因による頭痛の特徴、ならびに頭顔面部の症状は以下のようになります。
- 風により起こる頭痛では、目がまわるや頭がふらふらするなどの訴えをともないます。脈は浮いて柔らかい感触を得ます。こまた、患者さんは風に当たると具合が悪くなり、風に当たるのを嫌う傾向にあります。
- 熱では、顔が赤く脈が強く速い、舌の色も赤味が強くなり、舌苔は黄色(茶色〜焦げ茶色)となります。頭痛は比較的強くガンガン痛いなどの場合が多くなります。
◇例えば:目も病気の「翼状片」では「風」「熱」の邪気、または、胸部(上焦心肺)の「熱」が原因します。
(湿邪・湿による頭痛)
- 湿では、舌苔が厚く湿ぼったく、頭痛は重く頭全体を包まれるような感じに痛みます。身体とくに四肢(手足)のだるさがともないます。
◇例えば:「湿」が原因する頭痛では「重くしめつけられるような痛み」となります。
- 痰では目や頭が眩み悪心や吐き気をともないます。
◇例えば:眼の病気「麦粒腫」や「霰粒腫」ではこの「痰」に「熱」加わり「痰熱」という状態になって起こります。
- 気虚では、長く続く頭痛で、疲れつ(疲れると気虚が増すため)と頭痛が起こる、または更にひどくなります。
- 血虚では額に痛み、午後に痛みはひどくなる傾向があり、動悸や眩暈(めまい)をともなうと言われています。脈は細く舌色は淡くなります。
- 汚血では、突き刺すような痛みが特徴となります。舌色は暗紫で汚点、汚斑と言った暗紫色の斑紋が舌の側面に見られたりします。
また、これらの病因は単独であるよりも複合している場合が多く、先の「湿」に「寒」が加わると寒の収斂(しゅうれん=縮む)作用により締め付けられるような痛みなどに変化します。
治療には問診と脈診、舌診などを総合して、病因、ならびに患者さんの体質などに合わせた治療法(使用穴〈ツボ〉と鍼への手技操作)を決めなければなりません。これは、他の疾患症状の治療にも共通しています。
同じく頭痛を例にお話しします。
頭痛では、上述の東洋医学的治療をまず優先して行いますが、後頭部や側頭部では首から出る神経が係わっていることがあります。上述の治療で十分な効果が得られない場合には、神経解剖学的側面から考えた鍼灸治療、すなわち
神経解剖学的鍼治療を加えます。
この場合とくに重要なのが、後頭部へ分布する大後頭神経や側頭部へ分布する小後頭神経のもとである第二経神経が出る第一頚椎と第二頚椎の間、ならびに、肩こり(僧帽筋の緊張が強い)などの場合によっては第三頚椎付近までが治療範囲となります。上述の気虚の場合などでは、疲労時に頭痛がひどくなりますがこのようなタイプでは肩や首の凝りがあり不良姿勢によりさらに増悪する傾向にあります。頚椎の横突起や関節突起などにつく首を支える細かな筋肉の凝りや過緊張を神経解剖学的鍼治療で取り除くことが重要となることもあります。
また、前頭部の頭痛や
目の奥が痛むなどの頭痛では脳神経の一つ三叉神経の分布領域ですが、三叉神経の一部繊維は脊髄へ下りてきていてます。頚の痛みや緊張(頚神経の興奮)がおさまるとともに消えることが多いく、経験として「眼の奥が痛む症状」が鍼治療後消えなかった例はありません。
その他の頭部、眼、耳、鼻などの症状の治療においても、項部や頭と頚(くび)の連結部分の緊張が強い場合、この緊張を緩めてやることが症状の緩和につながることが多くあります。この部の緊張亢進は交感神経の興奮を招き血行不良の原因となるようです。つまり、この部の筋や神経の過剰な緊張を取り除くことが交感神経の興奮状態(=自律神経失調状態)を解消し血流促進、とくに抹消血流を促進し種々の症状の改善につながることにもなります。