セイ鍼灸院ホームページ


東洋医学的治療各論:



肺・呼吸器




咳・喘息(旧ホームページ)






肺・呼吸器の鍼灸治療///////////////////////////////


咳、痰をともなう咳、痰をともなわない咳

気 逆

咳は、本来の順調な状態では下降しているはずの肺気が逆に上へ向う病理現象です。これを気逆と言います。肺気が逆する原因には、熱、痰濁、陰虚の三つがあります。



実ならばその子を寫す

咳は肺の気逆(実)です。五行理論からの治療原則に「実ならばその子を寫す」(実則寫其子)と言ものがあります。肺は五行で金の属性ですから、肺経のツボのなから金の子に当たる水の属性のツボ尺沢が治療の主治穴となります。刺入した鍼に寫法の手技操作を加えます。これで肺の気逆、咳症状は鎮まります。



それぞれの原因への対応

尺沢に寫法とともに、原因である、熱・痰濁・陰虚 のそれぞれに対応します。


□ 熱の場合、外邪を受けた外因によるものと内因によるものとがあります。


■外因性(外邪によるもの)では、風熱、または風寒から熱に変化した場合などで、咳以外の症状では、頭痛がし、風に当たるののを嫌がることがあり、汗がに出る(風寒では汗が出ないことも)。口が渇き、痰をともなう場合痰の性状は粘ばり気があり黄色い。脈は浮いて数(速い、頻脈)、風寒では初期には浮いて緊張した脈で遅い(徐脈)の場合も。舌質は赤く、舌苔は薄く白もしくは黄色い。


◇治療は、上記の尺沢の他、手の陽明大腸経の曲池(または合谷)を寫します。上背部の肺兪に寫法を加えてもよいでしょう。


■内因性では、肺の直下に位置する肝の火熱の影響を受けやすく、この状態を肝火犯肺(肝火が肺を犯す)と言います。肝火とは肝蔵や肝経の陽気が過剰となり火熱に変化する病理現象で、この火熱により肺の津液(水分)を損傷し少量の粘性の痰が生じます。咳症状の他に、頭痛、めまい、眼の充血や痛み、顔が赤い、口が苦い、イライラして怒りっぽいなどの肝火特有の症状があります。脈診では、弦脈で数(速い=頻脈)で力強い。舌診では舌尖舌側が赤味が強くなり、舌苔は薄く黄色となります。


◇治療は、上記の尺沢の他、肝火を除くため足の厥陰肝経のツボ行間を用います。刺鍼には透天涼の手技操作を加え過剰な熱を除きます。上背部の肺兪に刺鍼し瀉法を加えるのも良いでしょう。火熱により陰虚(津液の不足)の著しい場合には、治療の最後に足の少陰腎経のツボ復溜へ刺鍼し補法の手技操作を加え不足した陰水を補い肺陰を補うとともに、肝陽の亢進を落ち着かせましょう。


このタイプ患者さんは、気分転換やリラックスを心掛け、過度の緊張やストレスを避けるとよいでしょう。



□ 痰濁の場合、肺の症状である咳に対しては上記の尺沢を用い刺鍼に寫法の手技操作を加えますが、東洋医学では痰の発生原因を肺や気管、気管支にあるとは考えず、水湿を運化(水分を輸送処理すること)する脾蔵の機能に問題があるためと考えます。痰のために咳が出る症状を痰濁阻肺と呼びます。痰濁阻肺は、痰や濁陰(濁って粘ついた水液)が肺気の昇降出入の機能を阻害すると言う意味です。東洋医学では「脾は生痰の源、肺は盛痰の器」と言われ、治療には痰を除くことと、痰の発生を止めることを考えなければなりません。この痰の発生原因が脾蔵にあるのす。つまり、脾虚(または脾腎陽虚)のため、水湿(体内の水分)を運化(運搬処理)する働きが低下して痰が発生している。これを治療するには、脾虚であれば脾気を補い、脾腎の陽気がともに不足しているのであれば腎気腎陽、脾気脾陽を補うことになります。


■脾気虚の場合、痰が多い他、疲れやすく、食欲がない、食後腹が張る、腸がゴロゴロ鳴る、下痢しやすい、顔色が萎えて黄色いなど脾気虚の症状がともないます。脈は濡弱(柔らかく弱い)舌質は血色が淡く形はむくんだ感じで歯痕があります。舌苔は厚くねっとりしています。


◇治療は、尺沢に寫法にて肺気逆を除くのは同じですが、咳症状の程度により加減します。同時に足の陽明胃経のツボ豊隆(脛の中央外側の前脛骨筋のふくらんだところ)と、足の太陰脾経のツボ陰陵泉(脛骨の内側上部)に刺鍼し瀉法を加え去痰(痰を取り除く)を図ります。その後、陰陵泉、脾兪などに補法を加え脾気を補います。去痰の瀉法を優先して施すのは、痰や湿濁など陰性の邪気(病因)があると気の働きが阻害されるためです。


■脾腎陽虚の場合では、上述の脾気虚の症状に腎虚の症状、ならびに陽虚症状の寒症、すなわち冷えの症状が加わります。元陽不足のため脾の陽気も不足となり、水湿の運化機能低下、痰の発生となります。


◇治療は、上記脾虚の治療に、腎陽を補う治療を加えます。足の少陰腎経のツボ太谿(内くるぶしの後ろ)に刺鍼し補法の手技操作を加えます。腎兪や、下腹部の関元に灸するなどもよいでしょう。



急性気管支炎、肺炎



■痰濁が長く停滞し化熱したり、または熱邪と結合すると痰熱とり、ねっとりとした黄色い痰が出る、ときに痰に血が混じり、これが肺をふさぎ痰が詰まってゼイゼイと鳴るなどの症状が現れる。これを痰熱壅肺(壅:ヨウ、ふさぐ意)と言い、急性気管支炎や、肺炎肺気腫気管支喘息に感染症を併発した場合などに見られます。症状がひどくなると呼吸が切迫し、脇胸部が痛み、舌は赤く、苔は黄色くねっとりし、脈は滑数を呈する。


◇治療は、上述の尺沢、豊隆に、足の陽明胃経のツボ内庭を加え刺鍼に透天涼(火熱を取り除く手技操作)を加えます。咳、喘鳴のひどい場合、任脈の胸骨上部のツボ天突に刺鍼し瀉法を加えるのもよいでしょう。



□ 陰虚の場合、陰虚(水の欠乏)による肺や咽喉の乾燥のために燥邪や、燥熱の邪を受けやすくなります。


燥、燥熱の邪が肺を犯すと肺の津液が傷つき肺気不利となり咳が出ます。その他の症状は、咽喉のかゆみや痛み、咳はから咳で、咳をしても痰は出ない、ただし、吐き出し難い痰を感じる場合があります。鼻や咽喉の乾燥が絶えず気になります。脈は細く数(速い、頻脈)で、舌は赤く津が少ない、苔は薄く黄色を呈します。


◇治療は尺沢に寫法、足の少陰腎経のツボ復溜に補法の鍼をします。


*舌の赤味が著しく濃く、苔の黄色が濃く舌表面にひび割れや裂け目(裂紋と言う)があれば陰虚や燥熱の程度が強い場合です。内庭に瀉法透天涼を加えます。




風邪をひいた後の咳が治らない

私は開業する前、病院に勤務し「東洋医学科」の診療科目のもと鍼灸治療専門に診療していました。すると、ある患者さんから「咳は鍼で治りますか?」と訊ねられました。聞くと、母親がカゼをひいたあと咳がずっと治らずつづいていると言います。「治りますよ」と伝えると、その母親が受診してきました。治療すると彼女の咳はすぐに治ってしまいました。2〜3回の治療回数だったと思います。

咳が治った話に慢性気管支炎の患者さんが・・・
10年以上も続いていた大量の痰がピタリと治ってしまった!

その後のある日、70歳ほどの男性が受診してきました。男性はかつての国鉄(今はJRですが)を退職したころからずっと咳と痰に苦しんでいると言います。近くの方ではなくこの病院へ来るには2回電車を乗換なければなりません。どなたかの紹介ですか?と聞くと「知らない人だけど、女性が電車の中でここの病院の鍼治療で咳が治った・・・」と話してるの聞いてやって来たと言います。もう十年以上もつづいている咳と痰を何とか治して欲しいと言うのです。痰は朝ひどく起きてから午前中いっぱいは痰を吐くのについやされると言います。豊隆、尺沢に瀉法を中心治療すると、一回の治療で痰は激減しました。患者男性は驚くとともに大喜びでした。その後数回治療を継続し、当初、洗面器一杯分もあったと言う痰は、午前中1〜2回ティッシュで取る程度となりました。


咳喘息だと言われた・・・

上述の咳の女性はその数年後、やはりカゼをひいたあと咳がつづくと来院しています。あるときは呼吸しずらい感じがあり、医師から「咳喘息」と診断されたと言って来ました。同様に咳の治療をし、不足していた腎気を補いました。すると、咳も呼吸も楽に。肺は呼吸の枝、腎は呼吸の根です。肺の不調は呼気がしずらく、腎は納気をつかさどりますから、腎気の不足は深く息を吸い込み難くなります。高齢になるにつれ腎気は衰えてきます。これを補うことが病気からの回復力や病気になり難い基礎的体力を維持することにつながります。


息切れ

上述女性の例では咳と息苦しさでしたが、息切れや呼吸の問題は肺と腎の治療で解決します。


息が吸いにくいのは、納気をつかさどる腎の虚として治療し、息が吐きにくい場合は、肺気不宣など肺の実のことが多いようです。腎気虚の場合は、腰痛や腰下肢が弱る、夜の排尿回数が増える、耳鳴りなど腎虚証の随伴症状がともない、脈は細く弱い




その他の呼吸器、咽喉、鼻の症状///////////////////////



咽喉がイガイガ

◇咳はたいして出ないが、咽喉がイガイガするなどの治療では、足の少陰腎経のツボ照海(内くるぶし下)へ瀉法を加えます。これに合わせて手の太陰肺経の手首のツボ列缺に刺鍼し同時に瀉法を施します。咽喉の不快感が消えます。



咽喉が腫れて痛い

◇咽喉が腫れて痛い場合、手の太陰肺経のツボ少商(手の親指のの爪の角)に刺鍼し点状に出血させます。急性扁桃炎などの腫れと痛みが瞬時解消することがあります。


●風熱による場合、寒熱頭痛、倦怠、節々が痛い、扁桃の発赤、腫脹、発熱、疼痛、嚥下困難、脈は浮いて速く、舌赤く、舌苔は白または黄色い


◇治療は、手の太陽小腸経のツボ天容(首の上部で下顎角の後ろ胸鎖乳突筋の前縁)、曲池または合谷、任脈のツボ廉泉(頚部前面正中下顎に当たるところ)などを寫します。


その他、扁桃炎を起こす原因と症状とその治療


●肺胃の熱が盛ん過ぎるため起こる扁桃炎、このタイプの人は平素食欲旺盛で便秘がちかもしくは便が硬い。暑がり。


症状は、突然高熱が出て咽喉部腫痛、扁桃が赤い、場合によっては化膿、嚥下困難、煩躁口渇、尿色濃く時に赤色を呈す、便秘、口臭(胃熱があると口臭が強くなる)、脈滑数、舌紅、黄厚苔。


◇治療は、尺沢寫の他、翳風(扁桃部の近位取穴で患部局所の熱と腫れを除く)内庭または解谿(胃熱を除く)すべて瀉法で透天涼を配す。風熱を受けて発症のものでは曲池寫を配す。


●陰虚による扁桃炎


陰虚は内熱をともないます。この熱が増すものを陰虚火旺と言い、熱邪的病因となります。扁桃炎は腫れ痛みとも軽く、朝よりも夕方以降の方が症状は強くなります。口や咽喉の乾燥、微熱、咽喉の異物感、咳をともなうなど。脈は細数、もしくは微弱、舌紅、少津少苔、裂紋など。


◇治療は、尺沢寫の他、少商に点刺出血し、復溜補にて陰水を補います。


このタイプは、風熱の邪を感受しやすい特徴があります。風熱では曲池に寫法まず先に施します。








呼吸器系疾患のはり治療 ( 旧ホームページ )


 咳せきや痰たん、喘息などの呼吸器系の症状がはり治療で治ることがあります。はりで咳が治るといてもピンとこないのではないでしょうか。体のどこかが痛ければ、その痛いところにハリを打てばよい、・・・たとえば、腰が痛ければ腰にハリを打てばよい、と言う発想からでは、咳にハリを打つわけには行きませんから、理解できないことでしょう。


◇喉の軽い異和感「エヘン虫」

 空気の乾燥などから軽い喉のどの異和感がつづくことがあります。喉がイガイガしてうっとうしく、良く咳払いをしたりするため、喉に「エヘン虫」がいるなどと言われる状態です。鍼灸医学では、経脈を気が流れ血液や水分を運ぶと考えますが、この喉の乾燥によるエヘン虫症状は、喉の潤い、水分が不足した症状です。このようなとき、脈診をすると脈が正常のときよりも細い感じに触れます。脈が細いとは、脈を川の流れにたとえれば、川の流水量が減って、川が細く(狭く)なったことと同じです。鍼灸医学で水は、腎じん(腎臓及び腎経脈)が主管しています。腎経脈は足底からかかとの内側、内くるぶしの後を通って、下肢の内側を上って喉を通り舌の根本へ達します。この腎経の足首にある復溜ふくりゅうと言うツボは腎陰を補う作用の強いツボです。体内の水分を鍼灸医学では津液と言いますが、ここで言う腎陰はこの津液を指します。また、腎陰のことを真陰とも、真水とも、元陰などと言い、身体や生命にとっての根源的な水分であることを意味します。


◇喉の潤いで歌声もなめらかに

 20数年前のことになりますが、ある有名な歌手の方を治療したことがありました。肩がこり、喉が乾いて体調が優れないと言うことでした。脈が細く(その他、やや脈拍が速い、舌の赤味が強い、舌苔が薄く乾き気味など)腎陰虚でした。復溜にハリを打ち腎陰を補うことを主に治療しました。次の治療でお会いすると、やけにニコニコご機嫌でした。前回の治療の翌日が、ちょうどレコーディングであったと言い、彼が言うには『のどがルレルレだった』と言います。私が『ルレルレ』の意味が分からづキョトンとしていると『今までにない喉の潤いで、最高の出来であった』と説明されました。

 最近の話では、動悸や不整脈の治療で当院を受診している70代の女性患者さんがこんなことを言っていました。鍼治療を続けてから「体調良くなってるのは確かです。咽喉も潤っていてし。コーラス、やってるんですけど、今まで出なかったところが、歌えるようになりました。」と言うことです。


◇喉の痛み(喉痺)

 喉の粘膜は十分に潤った状態でないと抵抗力が落ち、ウイルスや細菌に侵されやすくなります。乾燥によって「エヘン虫」の状態がつづくと炎症が起こり、喉の痛みや腫れを起こします。急性の咽頭炎症です。アデノウィルスなどが原因すると言われます。これを鍼灸医学では喉痺こうひと言います。痛みと腫れの原因は熱にあると考えます。

 鍼灸医学では乾燥など外界からの病気の原因(外因)を外邪と呼び、この外邪には「風、寒、暑(熱)、湿、燥、火」の六つがあり、これを六淫(ロクイン)と言います。よく「風邪は万病のもと」と言いますがこの風邪は一般の方の感覚では「風邪をひいた」ときの風邪でしょう。しかし、本来は「風は百病の長」と言って他の外邪を連れ従えて襲って来ます。風邪をひいたときには、「風」邪のみでなく、「風と寒」であったり、「風と熱」であったり「風と湿」「風と燥」と言うように風邪とともに他の邪気(病因)を従えて襲っ来ます。

 喉の痛みや腫れは、エヘン虫状態の乾燥から熱へと病期が進行したものですが、場合によては風熱の邪と言うかたちでいきなり痛みや腫れを起こすこともあります。この状態では、腎陰を補ってのどを潤すだけでは治療になりません。熱を取り除くことが治療の主となります。足陽明胃経のツボ、内庭(ないてい)または解谿(かいけい)に刺鍼し瀉法に透天涼(熱を除く効果が期待できる手技)の手技操作を加えます。その他、腎経のツボ「照海しょうかい」(以上のツボは足にあります)や手の太陰肺経のツボ「少商しょうしょう」(手の親指にあるツボ)やのどのツボ「廉泉れんせん」などを用います。

 急性の場合のほかに、慢性的に咽頭に炎症を起こしている人がいます。この場合も肺や胃などの熱邪を除く方法で対処します。


◇咽喉のイガイガ(慢性咽頭炎?)

 調布市のMさん(30代女性)は、のどがイガイガすると当院を受診しました。のどのイガイガした不快感が、3ヶ月前にカゼをひいてからずっと続いていると言います。 

 脈診と舌診からは、それほど問題はないように思われました。慢性的な軽微な症状では顕著な脈や舌の変化が判然としない場合もあります。しいて言えば、脈がやや細いこと、舌がやや赤く舌質本体がやや薄い、そしてやや少津少苔気味で、細かい裂紋があります。もともと痩せていて陰虚傾向があるところ、カゼをひいたときの発熱による陰の虚損が回復せず、咽喉の潤いを欠いた状態が続いているのでしょう。腎の経絡は、足から腹部胸部を通り、咽喉へ上って行き舌本を挟んで終ります。このため、正常であれば咽喉や口はサラッとした津液で潤っています。逆に、腎陰の不足では直接咽喉や口の乾きとなって現れます。

足の内くるぶしの下のツボ「照海」と手首の近くの肺呼吸器に関連するツボ「列欠」にハリを2〜3ミリ刺し軽く瀉法の手技を加えます。これらの処方の後、足首の内側の水を補うツボ「復溜」に刺針し補法の手技を加えます。

治療の要点は、のどの熱を除き潤いを与えることにあります。

治療開始から15分ほどすると、『のどが楽になってきました・・・へェ〜、即効性があるんですね!』とMさん。手首と足首のツボの刺針、治療時間20〜30分間で3ヶ月つづいていてのどの不快感がスッキリしました。

ただし、同じのどの症状でも、ツボの使い方(処方)は患者の状態によって違ってきます。

OLのかたわらポップスのボーカルを歌うと言うMさん、のどがスッキリしていい歌が歌えるといいですね!

◇咽喉の腫れや異物感、痛み、咽喉が赤いなど熱症状が顕著であれば

→尺沢(寫)、廉泉(れんせん:首前部咽喉の近位取穴として)(寫)、解谿、もしくは、内庭(寫、加透天涼)、の後に、復溜(補)を行います。



◇ 喘 息

 喘息も肺気の逆した状態です。長年大発作を繰り返している場合は、はり治療で軽減感が出る場合がはあっても、なかなか完治するまでは行かないようです。

 しかし、最近になって喘息の症状が出てきたと言うような場合は、治ってしまうことがあります。

 カゼのあとなかなか咳が治らずにいて、医師から『咳喘息』だなどと言われたなどのときには、早めにはり治療を試してみるとよいでしょう。ほんの数回の治療で治ってしまうかもしれません。

 咳が長く続いた後『咳喘息』だなどと言われる方は、ほとんど中高年以降の人です。加齢による体力や抵抗力の低下が病気の基となっています。鍼灸医学では成長発育から老化に至る変化を腎気がつかさどります。腎気、正確には腎陰(腎に貯蔵される精)を含めますが、腎の機能、働きと言う意味合いから腎気の衰えとします。

 喘息とは呼吸が苦しくなる病気す。呼吸は肺で行なわれますが、鍼灸医学では腎は納気を主どると言い、呼気と吸気からなる呼吸の内、吸気は腎気のはたらきによります。中高年以降になって咳喘息など喘息症状が起こるのはこの納気を主どる腎気の衰えが原因しているようです。ですから、高齢の方の喘息でははくときよりも、吸う方が苦しいことが多いようです。実際に足首の太谿や下腹部の気海や関元などのツボを使って腎気を補うとその途端に『吸うのが楽になりました』と言う患者さんが何人もいました。吸気し難いものは、腎気の虚が原因として治療します。腎気を補います。(逆に、呼気がし難いと言う場合もあります。この場合は、肺気の虚ではなく実として瀉法します。)

 腎と肺は相生関係と言って、互いに補いあう関係にあります。ですから、加齢的に腎気が衰えると呼吸を主どる肺も衰えることとなり喘息や慢性気管支炎などを起こしやすくなると考えられます。治療では、呼吸が苦しくゼーゼー、ヒューヒューしているときは、肺の実症状を取り除くことを主とし、症状が軽ければ腎または、腎と肺の気の不足を補うことを主とします。その他、実際に患者さんを診て、痰や熱など病気を悪化させたり、治り難くしている用因があればそれらにも対応しなければなりません。


◇肺炎

 肺炎がはり治療で治りますとは、言い切れませんが、入院中の祖母が、誤嚥ごえん(誤って気管に飲食物が入ること)性肺炎で危篤となったことがありました。行くと顔色に生気が無くわずかにポーッと赤く見え、細く弱い脈で、弱く苦しそうな呼吸です。肺の実を尺沢しゃくたく(肘の内側にある肺経脈のツボで、肺の実症状を取ります)を瀉法し、痰を除くため、豊隆ほうりゅう(足のスネの骨の外側の筋肉の盛り上がったところにある胃経脈のツボ)を瀉します。腎気腎陽を補うため、太谿たいけい(足の内くるぶしの内側のツボ)、関元かんげん(下腹部のツボ)を補います。すると、見るからに、呼吸が楽になり、顔に生気が感じられるようになりました。変化に気付いた看護師が聴診器を胸に当てると、それまであった肺の雑音が消えました。看護師の連絡を受けて担当医が来ました。医師は、患者の顔色と呼吸による胸の動きがよくなっているを見て不思議そうな顔をしました。聴診器を当て『本当だ。肺雑が消えてるね。』と言いました。やはり、不思議そうな表情でした。残念ながら、95歳と高齢の祖母は、MRSAに感染したここともあって、この3週間後に亡くなりました。もし、体力のある若い人であればはり治療で回復する可能性は充分にあると思われます。


◇肺炎後の体力回復

 ある患者さんの娘さんで40歳の女性が、肺炎で入院治療し、治って退院したのに呼吸が苦しく、体調が優れないと来院しました。呼吸が浅く、左の鎖骨の前から肩関節の前、そして腕の前外側部に痛みが走ると言います。この鎖骨の前から腕にかけては、ちょうど肺経脈の通っているところです。腎と肺を補うと、呼吸はすぐに楽になりました。肩から腕の痛みは40歳と言う年齢から、四十肩のような症状と重なっています。肺経脈の通りをよくすることと、」頚部の治療で治りました。後日、母親が来て『娘が元気になってよかった』と言いました。退院後体調の優れなかった娘さんは、外に出る気がしないと家の中に引きこもって居たそうですが、はり治療後は外出する気力が出たそうです。鍼灸医学では、「肝は魂を臓し、心は神を蔵し、脾は意を蔵し、肺は魄を蔵し、腎は志を蔵する」と五臓それぞれに精神性に関わっていると考えます。ここで肺が関わる「魄」と言う精神性は一説には「気魄(迫)」の「魄」で外へ向かって行く気力に通じ、その人の社会性に関係するものと考えられます。


花粉症の予防効果と治療のポイント


◇花粉症予防効果

 ある患者さん(50才代 男性 )は、前年の12月から、翌年1月にかけて腰痛と、ひざの痛みで7〜8回はり治療を受けました。2月にも、母親の付き添いでの来院ついでに、腰痛とひざ痛の予防目的で受診しました。3月になり、その年は史上最大と言われる花粉の飛散量で、職場など彼のまわりでも花粉症の症状の人が出だしましたが、彼は全く無症状でした。それも、彼は20年以上前からひどい花粉症であったのに、無症状だったのです。薬の服用もせずにです。生活はいつもと全く同じで、はり治療を頻繁に受けていたこと以外には別段なにもなかったと言うことですから、はり治療による予防的効果があったものと言えるでしょう。

 しかし、4月になり、杉林にかこまれたゴルフ場へ行き、黄色く煙立つスギ花粉のなかプレーした途端、くしゃみと鼻水が始まってしまったそうです。それでも、いつもの年より格段に軽いと言うことでした。

 現在は、薬が良くなり、副作用も少なく(抗ヒスタミン剤第二世代)、予防的に薬を服用される人がほとんどですが、はり治療による体調管理がアレルギーと言う免疫的な疾患にも有効に作用する可能性があることはたいへん重要なことです。


◇治療のポイント

鼻水型・・・・・・・・・

鼻水は肺気の虚(不足)した状態です。鍼灸医学では「肺は皮毛をつかさどる」とされ、肺気(肺の気の働き作用)は、体表の汗腺を開閉し体温調節を管理します。同様に鼻においても、鼻粘膜の表面を固めて鼻水が出ないようにする働きを肺気が担っています。これが不足すると鼻水が漏れ出ます。また、体表も開き体温が逃げますから、このタイプの方は寒がりで、風邪を引きやすいタイプです。
治療は、肺気の不足を補うこと《補法》になります。

鼻詰まり型・・・・・・

鼻詰まりは肺気不宣、肺気は充分にありますが、その流れが停滞しやすいことによって起こります。気の流れが滞ると張った感じや凝った感じを生じます。肺経のみであれば肩上部から背中の上の方肩こりや、鎖骨の下縁や前腕部肺経の通りに凝りや痛み(押すと痛い)など現れます。
治療は、気の流れの鬱滞を除き流れを促進すること《瀉法》となり、鼻水のときの《補法》とは異なります。

眼の痒み型・・・・・

痒みは熱(火熱)が係わります。気流れの停滞鬱滞が酷くなった場合やアレルギー的炎症を火熱した状態ととらえます。眼の充血の赤色や瞼(まぶた)の腫れの赤味は鍼灸医学では火熱と解釈します。この場合その他の診断でも、脈診では数(脈拍が速い)や舌診で舌の色が赤紫色などがあります。
治療は、火熱を除くツボ、刺鍼した針への熱を除く手技操作を加えます。

混合型・・・・・・・・・

混合型の場合、複雑ですが、先ずはその時点で最も気になる症状を主として、他の所見と総合して治療します。